G.C FACTORY編集部

M&A

「M&A後に意図せずに売り手の理事が残ってしまった場合のリスクと対処法」

Ⅰ. 目次

●はじめに

●M&A後に売り手理事が残ってしまう例

●理事が残ってしまった場合の対処法

●理事よりも厄介な社員

●おわりに

 

Ⅱ. はじめに

 医療機関のM&Aを行う場合、出資持分の譲渡と同時に理事などの役員を交代することが一般的です。しかし中には、買い手の意図しない形で、売り手側の理事が残ってしまうケースが見受けられます。本コラムでは、そのようなことが起きてしまった例を紹介し、どのような危険性があるのか、またそのような状態を解消するための対処法を、紹介していきます。

 

Ⅲ. M&A後に売り手理事が残ってしまうケース

 M&A成約後にも売り手側の理事が残ってしまうケースには、例えば以下のようなものがあります。

 

①売り手の故意、又は過失により知らされていなかった理事がいたケース

 故意、過失を問わず、譲渡契約書に記載している理事構成とは別に理事がいた場合です。通常、M&A時に結ぶ譲渡契約書には表明保証という条項が設けられることが多く、そこでは「社員、理事及び監事の構成が伝えているものと偽りがないこと」を明らかにして、保証します。よって、ここに記載されているメンバー以外に理事がいた場合は、売り手側の表明保証違反となります。

 なかなか考え難いですが、後から理事がぞろぞろと出てきて、買収対価を支払った後に理事会を乗っ取ろうとする故意の場合もあり得ます。M&Aを繰り返されてきた医療法人や急死してしまった親族から引き継いだりした医療法人ですと、売り手も把握していない理事がいたりすることもあり、買い手側へ役員変更をする手続きや定款変更などで行政とやり取りをした際に発覚して、売り手も驚くというような場合もあります。

 これは完全に契約違反ですので、買い手側は、売り手に対して、この表明保証違反によって受けた損害について補償請求をしたり、表明保証違反がある場合に契約の解除を認める条項が置かれている場合は、契約の解除をすることができるのが一般的です。

 

②売り手も把握していて、連絡が付かなかったり、退任を拒否されてしまったケース

 これは、売り手、買い手双方が理事構成を正確に把握しているが、譲渡直前に一部の理事と連絡がつかなくなったり、退任を拒絶された場合です。この場合は、譲渡契約書の締結前であれば「理事の○○は退任を拒否している」と説明して、その上で買い手が買収するかどうかを決めることになります。(なかなかそのままで買収とはなりにくいと思います。)一方で譲渡契約書の締結後に、売り手が理事にしっかりとした説明を怠っていて、譲渡契約書を締結してからクロージングまでに退任を拒否されてしまうというケースですと、こちらも譲渡契約書の表明保証や前提条件の違反となります。

 

Ⅳ. 理事が残ってしまった場合の対処法

 上記のような問題が生じた場合には、以下のような対処が考えられます。

 

①社員総会で決議をして退任をさせる

 医療法46条の5の2第1項により、「社団たる医療法人の役員は、いつでも、社員総会の決議によって解任することができる。」と定められているため、これによって解任をすることができます。決議に必要な社員数としては、同条第3項により、「社団たる医療法人は、出席者の三分の二(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の賛成がなければ、第一項の社員総会(監事を解任する場合に限る。)の決議をすることができない。」とあるので、これに従って、社員総会で出席者の3分の2以上の賛成がある場合に、理事の解任をすることができるということになります。

 ただし、同項第2項は、「前項の規定により解任された者は、その解任について正当な理由がある場合を除き、社団たる医療法人に対し、解任によって生じた損害の賠償を請求することができる。」と定めており、正当な理由にあたらなければ、解任された理事は損害賠償請求をすることができるとされている点に注意が必要です。

また、都道府県にも寄りますが、役員変更の際に原則として理事本人が署名捺印をした、退任届が必要な自治体もあり、この社員総会の決議だけで問題解決しようとする際には注意が必要です。

 

②理事の任期が満了することを待つ

 医療法第46条の5の9により、医療法人の理事の任期は2年を超えることができないと定められているため、任期が満了するのを待ち、再任をしなければ、退任させることができます。

 

③社員総会で理事を増やす

 医療法人において、最高決定機関は社員による社員総会ですので、理事の何人かがコントロールできない状態になっても法人の運営自体が危ぶまれることは考え難いです。ただ、こういった法人の場合は、後から複数の理事を名乗る人が出てきたりということもあり得ます。理事には定数も決まっていますので、その人達で定数が埋まってしまうようなことが起きると面倒です。予め理事の定数を増やしておいたり、信用できる人を加えておくということも考えられます。

 

Ⅴ. 理事よりも厄介な社員

 ここまでに、「理事」のケースで解説をしましたが、社員は理事よりも注意が必要になります。社員には理事のように任期がないため、理事で述べたように任期満了を待つことはできません。また、社員総会の議決で除名をする場合も正当な理由がないと辞めさせることができず、この正当な理由として、認められる場合は極めて限定されます。(重大な背反行為など)

 このように、社員を辞めさせるのは難しくなっていますが、社員権の過半数を得た場合、支配権を有し医療法人を乗っ取ることが可能になるので、M&A時において、社員の構成に間違いがないかの確認や、全員退社に同意をしているかどうかの確認は理事のとき以上に重要となります。

 

Ⅵ. おわりに

 今回のコラムでは、M&A時に退任をさせたい理事と連絡がとれない場合や、知らない理事が残ってしまった場合の対処法を紹介しました。今回記載したような対処法を知ることは重要ですが、より重要なのは、譲渡が行われる前に、このようなことが発生しないようしっかりと確認をすることです。買収監査などをするのももちろんですが、転売が繰り返されてきたような医療法人ですと、売り手側も全員の理事の把握ができていないことも起き得てしまいますので、こういったケースの場合は買収自体を慎重に考えるのも必要です。

 また、今回記載した一般論とともに、各法人の定款の内容や、各都道府県の行政ルールも合わせて確認をすることが重要です。

 

執筆者:金子 隆一(かねこ りゅういち)

(株)G.C FACTORY 代表取締役

 

経歴:

国内大手製薬会社MR、医療系コンサルティングファーム「(株)メディヴァ」、「(株)メディカルノート」コンサルティング事業部責任者を経て、2020年4月、(株)G.CFACTORY設立、現在に至る。医療系M&A、新規開業支援、運営支援において実績多数。

 

実績・経験:

・開業支援(約50件)、医療機関M&A(約40件)、医療法人の事務長として運営を3年間経験

・複数の金融機関、上場企業におけるM&A業務顧問に就任

・大規模在宅支援診療所の業務運営の設計及び実行責任者を兼任