G.C FACTORY編集部

資金調達、補助金

クリニックM&Aにおける資金調達(その1)

Ⅰ.はじめに

 クリニックM&Aのご相談をいただく際に、資金調達についてご相談をいただくことがあります。本稿では、その資金調達について、M&Aのスキーム別にまとめました。今回は調達する主体について記載をしています。内容としては、基本的な内容となりますので、初めてM&Aをされる先生のご参考になればと考えております。

 

 

Ⅱ.M&Aスキーム毎の調達方法

(1)事業譲渡(資産譲渡)の場合

事業譲渡とは、医療法人の事業(クリニック)や個人診療所の譲渡を意味します。法人譲渡と異なり、譲渡をしただけでは権利や義務は引き継がず、あくまでも合意をした資産(内装や医療機器)を引き継ぎます。行政手続き上は売り手のクリニックを廃止して、同じ場所で買い手のクリニックを新規で立ち上げる形になります。資金調達も買い手が、売り手に対して譲渡をされる資産や営業権の金額を支払うことになるので、その金額に開業後に必要な運転資金を加えた金額を調達します。

 

(2)法人譲渡の場合

一方で、法人譲渡とは、医療法人を法人毎引き継ぎます。方法としては、医療法人の出資持分や基金の譲渡と同時に、最高決定機関である社員総会の構成メンバーである社員や、執行機関である理事会の構成メンバーである理事の変更を行います。つまり、法人は継続をすることになり、権利や義務はそのまま引き継ぐことになります。この場合、譲渡時の法人の状態や買い手と売り手の交渉状況によって資金調達の方法も以下のように異なってきます。

①現金が残っている法人を引き継ぎ、別途譲渡対価を支払う場合

 

必要な融資⇒買い手(個人・法人)にて譲渡対価の調達

 

継承する医療法人の中に現金が十分に残っている状態で譲渡する場合、継承後の運転資金には困らないので、譲渡対価の金額のみ買い手(個人又は法人)が調達します。仮に金融機関から融資を受けた場合、事業を行う主体は医療法人となりますので、出資持分の保有者が理事などに入って役員報酬を得て、そこから返済をすることになります。出資持分の取得に対して融資を受けるということはなかなか説明が難しいため、継承する医療法人のメインバンクに相談をすると事情を理解しているのでスムーズにいくケースが多いです。また、その融資時に医療法人が連帯保証に入ることを求められる可能性もあります。この時は売り手とトラブルにならないように、譲渡契約書の締結タイミングと金銭消費貸借契約書の締結タイミングをM&A仲介者と相談して調整する必要があります。(融資を実行したのにも関わらず、M&Aが不成立になり医療法人の連帯保証が残ったり、M&Aが成立したのにも関わらず、資金が無いとならないように)

 

②法人に残っている現金を売り手が引き出し、譲渡対価が生じない場合

 

必要な融資⇒医療法人にて運転資金の調達

 

医療法人の現金などの流動資産を売り手がM&A時に退職金などで払い出す場合、継承後運営ができるように、医療法人にて借り入れを行うことになります。この場合、①の連帯保証の場合と同じく、譲渡契約書のタイミングと調整する必要があります。

ちなみに、譲渡対価が生じないケースなどがあるのか、と疑問に思われるかもしれないですが、例えば銀行融資の負債が残っているケースや、開業後年数が経っていて固定資産などの価値が少ない場合などでは、出資持分の譲渡対価が1円であったりすることが多くあります。

 

③法人に残っている現金を売り手が引き出し、更に譲渡対価が生じる場合

 

必要な融資⇒医療法人にて運転資金の調達+買い手にて譲渡対価の調達

 

こちらは②のように売り手が法人の現金を引き出して、更に譲渡対価を支払う場合です。買い手側は医療法人で融資の稟議を通しておくとともに、譲渡対価を個人で調達する必要があります。

 

Ⅲ.まとめ

本稿では、クリニックM&Aにおいて、スキーム毎に必要な資金調達に関して記載しました。事業譲渡の場合は、買い手が個人で調達をすることになります。一方で法人譲渡の場合は、双方の節税などの為に対価の支払い方法が複数あり、譲渡対象になる医療法人での調達や、譲渡対価支払いの為に個人で調達をすることになります。その場合は譲渡対象の法人のメインバンクや仲介者と前もって相談をしてスケジュールを組み立てる必要があります。

弊社のM&A支援は、単に買い手や売り手を紹介するだけではなく、スキームやスケジュールに応じて、資金調達もうまくいくようにご助言や、金融機関のご紹介をさせていただいております。M&Aを検討しているものの、現時点で買収資金が無いという方もお気軽にご相談ください。

 

 

執筆者:金子 隆一(かねこ りゅういち)

(株)G.C FACTORY 代表取締役

 

経歴:

国内大手製薬会社MR、医療系コンサルティングファーム「(株)メディヴァ」、「(株)メディカルノート」コンサルティング事業部責任者を経て、2020年4月、(株)G.CFACTORY設立、現在に至る。医療系M&A、新規開業支援、運営支援において実績多数。

 

実績・経験:

・開業支援(約50件)、医療機関M&A(約40件)、医療法人の事務長として運営を3年間経験

・複数の金融機関、上場企業におけるM&A業務顧問に就任

・大規模在宅支援診療所の業務運営の設計及び実行責任者を兼任