G.C FACTORY編集部

M&A

医療機関M&Aにおける留意点(スタッフ採用編)

目次

✓はじめに

✓M&A時のスタッフ採用におけるメリット、デメリット

✓スキーム毎における採用の進め方

✓具体的な採用方法

✓おわりに

 

Ⅰ. はじめに

医療機関のM&Aには様々な留意点があります。今回のコラムではスタッフの採用について説明していきたいと思います。医療機関においても採用はM&Aを成功させるために非常に重要なテーマになりますので、本コラムをぜひ参考にしていただければと思います。

 

Ⅱ. M&A時のスタッフ採用におけるメリット、デメリット

 

M&Aにおいては売り手側のスタッフが継続して勤務をしてくれることも多いです。その際に、個人クリニックの事業譲渡と医療法人の法人譲渡では、既存スタッフとの雇用契約などの留意点が異なります。ここではスキーム毎の留意点について記載をします。

 

⑴ 事業譲渡の場合

事業譲渡は、運営している事業を対象に範囲を指定して売買することです。個人のクリニックのM&Aは事業譲渡になります。事業譲渡の場合、権利、義務、契約などは引き継がれない為、原則として既存スタッフとの雇用契約も引き継がれません。その為、買い手が既存のスタッフを引き続き雇用することを望んだ場合は、新たにスタッフと雇用契約を結ぶ必要があります。事業譲渡の場合の売り手、買い手のメリット、デメリットや留意点は以下となります。

 

① 売り手のメリット・デメリット・留意点

事業譲渡は譲渡をするだけでは雇用が引き継がれないため、既存のスタッフの雇用を守って欲しい場合には、譲渡契約書の中に既存スタッフを引き継ぐ内容を記載する必要があります。また、一度、自院を退職して、新しい買い手の医療機関に就職をするというイメージですので、退職金の取り扱いや、有給休暇の起算日などについて買い手と合意をしたうえでスタッフに伝達する必要があります。

 

② 買い手のメリット・デメリット

事業譲渡の場合、原則として既存スタッフを引き継ぐ義務はありません。そのため、既存の雇用条件などを確認することがあっても、その雇用条件通りに雇用契約を結ぶ必要はありません。スキーム上、スタッフの雇用について縛られない点や、退職金などの規定があったとしても引き継がれない点は、買い手のメリットと言えます。とはいえ、売り手から継続雇用が条件に加えられることもありますし、継続雇用をする際に、1名だけ不合格にしたりするのは開業後の雰囲気的などを考えると難しかったりもして、何でも思うようにいくかというとそうもいかないです。

 

⑵ 法人譲渡の場合

法人譲渡は、医療法人の経営権を引き継ぐことです。具体的には、出資持分や基金拠出者の地位の譲渡に合わせて、社員、理事の入れ替えによって行われます。法人譲渡は、譲渡後も医療法人は存続する為、権利や義務も当然引き継がれます。その為原則として既存スタッフの雇用義務や条件も引き継がれます。法人譲渡の場合の売り手、買い手のメリット、デメリットや留意点は以下となります。

 

① 売り手のメリット・デメリット

法人譲渡の場合、雇用契約やその条件が必須で引き継がれるため、事業譲渡の場合のように、自院の既存スタッフの次の就職先を案ずる必要がありません。一方で、職種や買い手医師の診療内容によっては、譲渡先が限定される可能性があります。これは例えば、内科のクリニックを譲渡しようと考えていた際に、非常勤医師、管理栄養士、放射線技師などの専門職を必要とするかは買い手側の経営方針や診療方針によって変わってきます。法人譲渡の場合はそのような職種の人の雇用も引継ぎが必須の為、名乗り出る買い手候補が限定的になり、スタッフに退職いただくために多めの退職金を負担しなくてはならない可能性があります。

 

② 買い手のメリット・デメリット

既存のスタッフが非常に優秀で、雇用条件が買い手の想定する内容と合致している場合には、新たなスタッフを採用する手間が不要になります。また、オペレーションも完成していますし、患者さんとも顔見知りである点も、既存スタッフを引き継ぐことは大いにメリットといえます。

その一方、雇用条件が一致するかどうかは難しく、法人の人事規定や就業規則、賃金規定、雇用契約書の書式を十分に確認する必要があります。また、オペレーションに関しても「前の院長ではこうでした」というようなことは言わずに柔軟に変化を受け入れられそうかなども重要な視点です。

 

Ⅲ. スキーム毎の採用の進め方

事業譲渡と法人譲渡では採用の進め方も異なる点に留意が必要です。

 

⑴ 事業譲渡の場合

① スタッフの引継ぎがある場合

まずは既存スタッフと面談をして、新しいクリニックの診療日や診療時間を伝えます。その上で勤務可能日を聞いてシフトを作成します。その後、足りない枠で募集をします。留意点は既存スタッフと新スタッフの待遇を納得感があるものにする必要があります。

 

② スタッフの引継ぎがない場合

内装や機器を引き継ぐだけであり、オープニングスタッフとして採用活動を行うことになります。継承して開業する前に採用ができるように、その一方で採用をしてしまってからM&Aが破談とならないように、譲渡と採用のタイミングを調整します。

 

⑵ 法人譲渡の場合

原則、スタッフは継続雇用となるので、譲渡の契約日から、クロージング日(実際に経営権が移行する日)までの間に、面談をして継続して勤務する意志があるかを確認します。また診療時間や診療内容などに変更がある場合は、その面談の前に説明会などを行います。留意点は、この面談や説明会後に破綻になるとスタッフを振り回すことになってしまう為、譲渡契約書の締結後が望ましいです。

 退職者が出る場合や、診療枠の拡大で追加採用する場合は、譲渡契約書の締結後、クロージングまでの間に採用をすることになり、まだ法人が売り手のものの時に採用をすることになります。この点を売り手に協力いただく必要があります。

 

Ⅳ. 具体的な採用方法

次に具体的な採用方法です。医師とコメディカルスタッフを採用する場合では、採用方法が多少異なりますので分けてご紹介します。

 また、採用する人数等によっても採用方法の選択が変化します。同時期に複数名を採用する場合には、WEB上に公開される採用媒体を選択すると、定額の掲載料金のみとなり、何人採用しても追加料金がかからずコストを抑えられます。

一方、特定の職種、専門スキルや資格保有者や役職のあるポジションを採用したいという場合には、民間職業紹介事業者(紹介会社)を利用することによって、優秀な人材確保をする方法もあります。採用が決定した際に年収の数十パーセントを成功報酬として支払います。費用面で求人媒体利用に比べコストがかかり、自院にマッチした人材確保にむけてより慎重さが求められますが、採用後の定着率や自院での活躍やパフォーマンスを見据えた満足のいく採用を行いたいという場合、紹介会社を利用するメリットはあります。

 

⑴ コメディカルスタッフ(医師・歯科医師以外の医療従事者)

コメディカルスタッフの場合、インターネットなどに掲載される求人媒体を利用することが主流です。現在はハローワーク(公共職業安定所)の求人掲載もWEB上で手続きが完結できるようになっていることから、民間と公共の求人媒体をうまく活用することがコメディカルスタッフ採用に有効的です。

媒体によっても特徴が異なりますので、必要職種やコンサルタントなどと相談して、戦略的に媒体を選定すると良いです。

 

 

⑵ 医師(歯科医師を含む)

医師は、専門性が高く、なかなか媒体での採用は難しいです。その為大学医局への依頼や縁故・リファーラル(スタッフ紹介)での採用が行われております。また紹介会社による採用も利用する医療機関が多いです(下記グラフを参照)。紹介会社の費用は、採用が決定し入職後に成功報酬を支払います。ヘッドハンティング系の会社など、一部のサービスは着手金がかかることもあります。

そのほか、自院のホームページ等に採用情報を掲載する直接採用や、昨今では、ダイレクトリクルーティングによるスカウト型採用を取り入れていくケースもあります。これらの方法では、より自院の施設情報、スタッフ体制や業務内容などを明確に記載し、求職者が働くイメージを持てるような作り込みが必要になります。はじめから完璧な内容を掲載することは難しく、また日々医療現場の環境や体制は変化するということも想定し、定期的にブラッシュアップを行っていくことが大事です。

留意点として、医療機関におけるM&Aにおいて事業譲渡や法人譲渡を行った際、理事長を採用したいという場合、理事長は、『開設管理者』となることから紹介会社による医師紹介を受けることはできません。(管理者については医師紹介を受けることが可能です。)

 

 

 

出典:日本医師会総合政策研究機構『日本医師会病院における必要医師数調査』2015年7月、p4

 

Ⅴ. おわりに

今回のコラムでは、医療機関M&Aにおける採用編と題して、事業譲渡と法人譲渡の場合におけるそれぞれの留意点やメリット・デメリットについて説明をしております。       

また、採用を行う場合には、その職種によって採用方法が多様化していることをご説明してきました。留意点を把握して一つ一つの事例に合わせて進めていくことが大切です。

事業譲渡や法人譲渡の契約締結に至るまでに売り手と買い手が様々な交渉をクリアしてきたにも関わらず、最後に就任予定であった医師の入職が難しくなり当初想定していたクロージング日に間に合わない、最悪な場合、売り手側から買い手側への引継ぎが十分できないことから契約解除になるというケースも少なくありません。そのような事態にならないためにも当初から人材について入念な計画を立てる必要があります。M&Aを含めて医療機関の採用についてご相談がありましたら、多くの事例や実績をもつ弊社へお気軽にお問い合わせください。

 

 

執筆者:金子 隆一(かねこ りゅういち)

(株)G.C FACTORY 代表取締役

 

経歴:

国内大手製薬会社MR、医療系コンサルティングファーム「(株)メディヴァ」、「(株)メディカルノート」コンサルティング事業部責任者を経て、2020年4月、(株)G.CFACTORY設立、現在に至る。医療系M&A、新規開業支援、運営支援において実績多数。

 

実績・経験:

・開業支援(約50件)、医療機関M&A(約40件)、医療法人の事務長として運営を3年間経験

・複数の金融機関、上場企業におけるM&A業務顧問に就任

・大規模在宅支援診療所の業務運営の設計及び実行責任者を兼任