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医療法人のM&Aによる分院展開|管理医師の採用戦略や不動産契約の注意点

目次

I.はじめに

II.分院展開でM&Aを活用する方法

III.M&Aによる分院展開のポイント1.管理医師の採用戦略

IV.M&Aによる分院展開のポイント2.不動産契約の切り替え

V.M&Aによる分院展開は効果的な拡大戦略

 

Ⅰ. はじめに

経営が順調な医療機関が、事業拡大の一環として分院展開を希望するケースが増えてきています。本稿では、分院展開を希望する法人様や先生に向けて、分院展開の基本的な知識を解説します。また、分院展開を成功させる上で重要な管理医師の採用戦略と不動産契約などの注意点についても説明します。

 

Ⅱ. 分院展開でM&Aを活用する方法

現在は個人事業という方も、すでに医療法人化している方も、M&Aによって分院展開にかかる時間的コストや手間を大きく削減できる可能性があります。個人事業の場合と医療法人の場合に分けて、M&Aの活用法を解説します。

 

●現在運営しているのが、個人事業の場合

 

大前提として、分院展開をするためには医療法人でなければなりません。個人事業の場合、それぞれの管理医師が事業主となり、確定申告で事業所得を申告する必要があります。仮に名称などに統一感を持たせたとしても、金銭的にも法律的にも、異なる存在となります。

 

つまり、今はまだ個人事業で、分院展開を希望している場合、まずは自身の医療機関を法人化する必要があります。

 

しかし、医療法人成りは好きなタイミングでできるわけではありません。年2回(所在する都道府県に寄って時期は異なります)の法人化のタイミングが決められており、事前説明会に参加した上で、スケジュールに沿って半年から1年ほどかけて手続きをする必要があります。また、必ず法人化できるというわけではなく、書類の不備などがあると認められないこともあります。

 

この法人成りの手続きに加えて、法人化する場合、個人事業を廃業して医療法人を新設することになるため、開業時と同様に開設に関する行政手続きが発生します。具体的には、厚生局への届出や保健所の検査などです。

 

このような時間的コストや手間を削減するために、法人化の代わりにM&Aを選択する方法があります。M&Aの場合は、案件にもよりますが、医療法人の出資持分(又は基金拠出者の地位)の譲渡と、医療法人の社員と役員(理事と監事)の交代で完了となり、保健所、厚生局においても管理医師の交代の手続きのみで済むことが多く、医療法人の新設と比べて短期間で医療法人体制での運営ができます。

 

そして、現在個人クリニックを運営している先生が医療法人をM&Aする場合、選択肢は2つあります。

 

①医療法人の出資持分と社員と理事長の権利を取得しつつも、個人クリニックは個人事業のまま継続をする

買い手が医師(又は歯科医師)の場合に、その方の役職は、買収した医療法人の理事長と、元々のクリニックの院長(管理医師)となります。買収した医療法人で開設しているクリニックには別の管理医師を雇用することになります。理事長と個人クリニックの院長の重複に関しては、それを禁ずる法律は無いですが、管轄の都道府県や保健所の確認が必要となります。この場合に必要な行政手続きは上記の通り医療法人の役員変更に関する手続きとなります。

 

②取得した医療法人に元々運営していた個人クリニックを分院として組み込む

個人クリニックを運営する先生が医療法人を事業付きでM&Aした場合は、こちらの形をとる方が多いです。買収した先生が医療法人の理事長と、どちらかのクリニックの院長(管理者)になります。そして買い手は理事長としての役員報酬を得ます。この場合は、元々運営していたクリニックを医療法人の分院にする為に、医療法人の定款変更を行う必要があります。定款変更は、都道府県の認可が必要で一般的に3~4か月の期間がかかります。ただ、法人成りと異なり年間のいつでも提出することが可能です。

 

この2つの選択肢のどちらが良いかは、一概には言えず、例えば役員の構成や考え方に寄って、元々の個人クリニックの利益(又は赤字)を医療法人に取り込みたいかという考え、スケジュール、税金、スタッフの連携の有無などに寄って変わってきますので、ここでの詳細のご説明は割愛します。その時々で、専門家への相談が必要です。(弊社にご相談をいただければ、ご要望をお聞きした上でご提案をさせていただきます。)

 

●現在、運営しているのが医療法人の場合

 

すでに医療法人化していて分院展開を考える場合、法人設立の手間はかかりませんし、医療法人をM&Aしてくる必要もありません。つきましては、手続き面の簡略化やスケジュールの前倒し目的でのMAは不要となります。ただMA自体が選択肢から消えるというとそうではありません。MAの本来の価値である、「良い事業を継承する」という場合が考えられるからです。1からの分院設立の場合、どのくらいの患者数が見込めるかを正確に予測することはできません。個人開業の頃は院長先生自身の頑張りで集患していくことができますが、分院で雇われ院長先生の場合、その踏ん張りを期待し過ぎるのも危険です。その意味では最初から患者さんがついており、事業の予測が立ちやすいという面で、医療法人の分院展開としてMAを検討する価値は十分にあります。また、新規開設で分院展開をする場合は、内装工事を施し、医療機器等を新たに購入し、スタッフを採用したり、多大な時間と労力が必要です。MAによってこれを削減することができます。

では、買収するクリニックも開設形態が医療法人であり、その医療法人をM&Aする場合は以下の2パターンになります。

 

①合併や事業譲渡をして、医療法人を1つにまとめる

医療法人を1つで運営していく場合は、元から運営していた医療法人とMAした医療法人を合併するか、事業を譲渡して、1つにまとめる必要があります。合併は法人成りと同じく、各都道府県が定めた医療審議会(年に2回)を通す必要があり、期間は半年からタイミングが悪ければ1年近くかかってしまいます。事業譲渡の場合は、事業を譲渡する医療法人は解散の手続きが必要となり、事業を受ける側の医療法人では定款変更の手続きが必要となります。いずれにしても煩雑となり、医療法人1つでの運営を希望する場合は、MAをする時点で事業譲渡を選択できないか売り手に交渉をするのもお勧めです。(余計なリスクを継承する可能性も排除できるため)また、事業を譲渡した後の、事業が無い空の医療法人のMAを希望する人もいます。この方法に関してはスケジュールや役員構成など留意する点が多く、医療法人に精通した行政書士事務所(又は会計事務所の行政書士)とともに行政に相談の上、実行することをお勧めします。

 

②2つの医療法人を運営する

この方法の場合は、手続きの手間はとても少ないです。その一方で、一番の課題は理事長を2人用意できるかです。理事、社員、出資者と異なり理事長は2つの法人で就任することはできず、原則、医師又は歯科医師である必要があります。またMA時の手続きは少ないですが、決算や社員総会、理事会の運営、事業報告や役員重任手続きなどが全て2医療法人分必要となる点は手間となります。

 

やはりこの2択も役員との関係や税的な要素を加味して、専門家のアドバイスの元、慎重に検討が必要となります。

 

Ⅲ. M&Aによる分院展開のポイント 管理医師の採用戦略

ここからは分院展開の成功における重要ポイントについて開設をしていきます。法人の形態やスキームでうまくいっても、その後の運営がうまくいかなければ意味がありません。

そして分院展開で重要なのが、分院長となる管理医師の採用戦略です。管理医師によって、分院展開が成功するか否かが決まると言っても過言ではありません。理事長の経営方針や診療方針をよく理解し、ともに歩んでいける相手を見つける必要があります。

 

管理医師の採用ルートとして、以下4つをご紹介します。順番に解説するので、候補者を思い浮かべながら読み進めてください。

 

●組織内で育成する

本院で医師を採用し、二診体制、三診体制で診察をしながら育成した上で、分院長に昇格させるという方法です。コミュニケーションを密にとれるため、お互いの診療方針を深く理解し合えることがメリットです。いざ分院を開設してから、考え方の違いでトラブルになるリスクを減らせます。また、同様に急遽分院長が退職した際に本院から代わりを出せるくらい本院を拡大させておくと更に安心です。本院がしっかり利益がでていれば、分院が多少赤字でも安心して運営ができますし、本院がしっかりしないと分院長からの信頼も揺らいでしまいます。その意味で、分院の成功の秘訣は本院にあると言っても過言ではないと思います。

 

●人材紹介会社に依頼する 

最近では、人材会社に依頼して分院長を探すケースが増えてきています。

条件の合う医師が見つかり、面接する時は、相手を見極めるだけでなく、自分の経営方針や分院にかける想いを伝えることも意識してください。医師不足の昨今、優秀な医師を採用するためには、「選ばれる側」という意識も大切です。

年俸などの条件は、前職での年収を踏まえ、人材紹介会社や医療機関の顧問を豊富に持っているのであれば顧問税理士とも相談して決めるのが良いと思います。また分院長がモチベーションを維持して働けるよう、インセンティブを設定するのも効果的です。

 

また、分院長が急に辞めると分院の経営に支障をきたしてしまうため、「退職は6ヵ月前に申し出る」といった条件を設定し、十分な意思確認をしておくことも検討してみてください。

 

●友人知人に相談する

医学部時代や研修医時代などの友人知人に分院長になってもらうという方法もあります。また、友人知人から分院長として適任な医師を紹介してもらう方法もあります。

ただし、いくら友人知人として気が合っていても、一緒に働くこととなると診療方針の違いなどから意見が食い違ってしまうことも十分あり得ます。お互いの関係性にも配慮しながら、慎重に交渉を進めましょう。

 

また、後々のトラブルにならないように、友人とでも雇用契約書などの書面はしっかりと残すようにしましょう。

 

●MAの売り手医師を雇用する

M&Aの売り手のニーズの多くは、後継者がいないことによる廃院を避けることです。そのため、M&A後は勇退することが一般的です。

しかし、数は少ないものの、中には経営者という立場を手放して一人の医師として診療に専念したいと考え、M&Aを希望する売り手もいます。

このようなケースでは、売り手の医師にそのまま分院長として診療してもらうことが可能です。

 

Ⅳ. M&Aによる分医院展開のポイント2.不動産契約の切り替え

M&Aによる分院展開では、不動産契約の切り替えにも注意を払う必要があります。

事業譲渡というM&Aスキームを用いる場合、買い手と不動産オーナーで新たに不動産賃貸借契約を結び直すことになります。

 

不動産オーナーにもよりますが、賃借人変更に敏感な不動産オーナーは意外と多いのです。M&Aの話が進んでから確認のつもりで不動産オーナーに報告すると、信頼できないと感じた不動産オーナーから、新しく賃貸借契約を結ぶことを拒否されることになりかねませんし、今の賃貸条件から変更になってしまうリスクもあります。

 

M&Aを進める場合、しかるべきタイミングで不動産オーナーに相談し、了承を得ておく必要があります。不動産オーナーとの信頼関係を損ねないよう、誠実な対応を心がけましょう。

 

口頭で事前に了承を得ていたにも関わらず、M&Aを実行する直前になって断られてしまうケースなども少ないですが存在するため、MAの実行条件として「不動産オーナーと賃貸借契約書を締結できること」を記載していおくのがお勧めです。また、不動産オーナーが高齢である場合、相続人となる予定の家族の意向も重要です。

 

Ⅴ. M&Aによる分院展開は効果的な拡大戦略

分院を展開すれば、患者数が増えることはもちろんですが、本院との連携によって相乗効果が生まれることもあります。たとえば、本院の設備を充実させ、必要に応じて分院から本院へと患者を紹介するといったスタイルが考えられます。

相乗効果によって医業収益が増えれば、スタッフに還元したり、設備投資をしたり、さらなる発展を目指せます。また、本院と分院でノウハウを共有したり、業務を標準化したりすることで、組織体制を強化することも可能です。

 

事業拡大を考えているなら、分院展開は効果的な選択肢といえるでしょう。時間的コストや労力を最小限に抑え、成長スピードも重視して事業拡大したい方は、ぜひM&Aによる分院展開を検討してみてください。

過去記事参考にしました。

コラム:「分院の作り方」行政手続きについて

 

㈱G.C FACTORY コンサルティング