G.C FACTORY編集部

売却価格、税関連

持分あり医療法人のM&Aにおける「出資持分譲渡」「退職金支払い」ぞれぞれにおける留意

目次

Ⅰ. はじめに

Ⅱ.出資持分譲渡における留意点

Ⅲ.退職金支払いにおける留意点

Ⅳ.おわりに

 

Ⅰ. はじめに

医療機関のMAを行う場合、まずは譲渡対価総額を決定することになりますが(譲渡対価の算定方法は、「クリニックMAにおける譲渡価格の考え方」の記事をご参照ください)、持分ありの医療法人の場合、譲渡対価総額は、①出資持分譲渡の対価として受け取る部分、②退職金として受け取る部分の2つ(又はどちらか片方)になることが多いです。このとき、売り手としては対価の受け取り方によって、所得区分が異なり、手取り額が異なってくるため重要な論点となり、①②それぞれの留意点を把握しておくことが望ましいです。また、買い手側にも同様に①②それぞれについて留意点があります。今回はこの留意点について、主に税金、資金調達にフォーカスして、売り手、買い手、双方の留意点について事例を交え解説します。

 

Ⅱ.  出資持分譲渡における留意点

まずは、出資持分譲渡における留意点を、売り手、買い手それぞれの視点で説明します。

 

1.売り手の留意点

①課税関係の考え方を理解しましょう。

売り手が出資持分を譲渡した場合の課税関係について確認します。

所得税法上、出資持分譲渡によって利益が生じた場合、「譲渡所得」に区分され、その譲渡益に課税されます。
この場合、税率は20.315%(所得税、復興特別所得税の15.315%、住民税5%)です。

また、

・譲渡所得税=譲渡所得×20.315%

・譲渡所得=譲渡価額―(取得費+譲渡費用)


となり、設立時に出資した出資金は、「取得費」(原価)として譲渡所得の算定の際に、譲渡価格の金額から控除することができます。つまり、出資持分譲渡対価が出資額までであれば税金はかかりません。

 

事例を交えて、確認します。

 

■事例

10年前に800万円を理事長A先生が出資し、医療法人を設立した。

10年経過し、MAによる第三者承継を検討し、仲介会社に相談した。

・仲介会社の紹介によりB先生に出会い、面談や交渉を重ねた結果、譲渡対価総額(出資持分譲渡対価5,000万円、退職金支払い0)で出資持分を譲渡すること、社員や理事を後継者B先生が選任するメンバーへ交代することを約する出資持分譲渡契約書を取り交わした。

 (退職金は一切発生しない内容)

 

 譲渡対価総額:5,000万円

(出資持分譲渡対価:5,000万円、退職金:0)

 

 A先生の手取り額:3,749万円  

詳細:5,000万円税金約751万円仲介料500万円

税金:3,700万円×20.315%=751万円

譲渡所得:5,000万円-(800万円+仲介料500万円)3,700万円

 

②譲渡対価に根拠をしっかりとつけましょう。

出資持分の譲渡により対価を受け取る場合、税務上、「時価取引」が前提となります。この出資持分の時価とは、資産と負債の差額である「純資産」や収益性を反映した「営業権」などをもとに算定するケースが多いです。純資産には設立から積み上げてきた内部留保が含まれており、営業権には医療法人の超過収益力が評価に含まれています。

 

このような、時価純資産価額や収益性から考えた時価と、譲渡対価が大きく乖離する場合は、税務調査時に指摘を受ける可能性があるため、(第三者間の売買の場合、取引金額に恣意性は介入しないことが多いとみられていますが)その譲渡対価の算定根拠を明確にしておくことが望ましいです。

 

2.買い手

①出資持分譲渡対価は経費に入らないことを認識しましょう。

買い手が出資持分譲渡対価として売り手に支払った金額は、いわゆる経費には入りません。

というのも、出資持分の取得は株式の取得などのように「資産」を取得した扱いになります。

 

ちなみに、将来、この出資持分を譲渡することがあれば、その際の譲渡所得の計算において取得費としてカウントすることはできます。(それまでは、経費計上することはできません)

 

②出資持分譲渡対価を融資で賄う場合は、返済に注意しましょう。

出資持分を取得する主体は買い手であるため、医療法人ではなく、買い手が資金調達を実施する必要があります。

つまり、仮に金融機関から融資を受けた場合は、買い手が医療法人から受け取る報酬(役員報酬など)から返済していくことが一般的です。この際の留意点としては、役員報酬などの医療法人から受け取る金銭には税金がかかり、税引き後の天引き額から返済することとなります。この場合は、法人の事業計画とあわせて、個人の返済計画を検討しましょう。

また、金額が大きくなると資金調達が困難になる可能性もあり、出資持分の取得ができないことも起こり得ます。

 

Ⅲ. 退職金支払いにおける留意点

次に退職金支払いにおける留意点です。今回も出資持分譲渡同様に売り手、買い手それぞれの視点で説明します。

 

1. 売り手

①退職金を受け取ることによる税金と手取り額について事前に想定しておきましょう。

退職金を受け取った場合、累進税率(0~最大55.945%)により課税されます

ただし、役員等の勤続年数が5年以下である場合を除き、下記計算式の通り、退職所得を2分の1とする計算が適用されるため、MAを検討される医療法人の役員の場合、累進税率は027.9725%となることが多いです。また、退職所得には、勤続年数に応じた控除があるため、所得区分の中でもかなり優遇されている区分となっています。

 

・退職所得の税金=退職所得の金額×累進税率

・退職所得の金額=(収入金額-退職所得控除額(1)× 12(2)

 

1:退職所得控除額の計算の表

退職所得控除額は、次のように計算します。

勤続年数(A)

退職所得控除額

20年以下

40万円 × A

(80万円に満たない場合には、80万円)

20年超

800万円 + 70万円 × (A – 20)

 

(例1)勤続年数が102ヶ月の人の場合の退職所得控除額

勤続年数は11年になります。

(端数の2ヶ月は1年に切上げ)

40万円×(勤続年数)=40万円×11年=440万円

 

(例2)勤続年数が30年の人の場合の退職所得控除額

800万円+70万円×(勤続年数-20年)=800万円+70万円×10年=1,500万円

 

出典:国税庁ホームページ(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1420.htm

 

2:役員等の勤続年数が5年以下である場合、上記計算式の2分の1計算の適用がない可能性があるため、確認が必要です。

 

退職金受給に関しても事例を交えて、確認しましょう。

 

■事例

10年前に800万円を理事長A先生が出資し、医療法人を設立した。

10年経過し、MAによる第三者承継を検討し、仲介会社に相談した。

・仲介会社の紹介により、B先生に出会い、面談や交渉を重ねた結果、譲渡対価総額(出資持分譲渡対価0円、退職金支払い5,000万円)で出資持分を譲渡すること、社員や理事を後継者B先生が選任するメンバーへ交代することを約する出資持分譲渡契約書を取り交わした。

 

 譲渡対価総額:5,000万円

(出資持分譲渡対価:0円、退職金:5,000万円)

 

A先生の手取り額:3,617万円

詳細:5,000万円税金約883万円仲介料500万円

税金:2,300万円×超過累進税率=883万円

退職所得:(5,000万円-400万円)×1/22,300万円

  退職所得控除:40万円×10年=400万円

 

②退職金の支給額の根拠も確認しておきましょう。

退職金は、医療法人の役員退職金規定に則って支給することとなります。退職金規定を設定している医療法人は、規定上、いくらの退職金を支給する決まりとなっているか必ず確認しましょう。

 

 

2. 買い手

①退職金の損金算入限度額を確認しましょう。

医療法人が役員(理事長、理事など)に支給する退職金で、適正な額のものは損金(税金を計算するうえでの経費)に算入することができます。法人税法上、適正額がいくらになるか、よく論点になりますが、その役員の在任期間や、役職(・貢献度)、報酬額に基づいて計算するケースが多いです。税務上の損金算入限度額の算定方法として、功績倍率法があり、下記算式で算定した金額を上限として医療法人の損金(経費)となります。

 

最終報酬月額×勤続年数×功績倍率

 

また、退職金を支給すると、単年度で臨時的な損失が生じることとなります。利益を大幅に上回る損失が計上され欠損金が生じた場合、繰越欠損金として10年間将来の所得と相殺が可能です。()

 

※欠損金額が生じた事業年度において青色申告書である確定申告書を提出し、かつ、その後の各事業年度において連続して確定申告書を提出していることが適用の要件です。

 

②退職金の資金調達は、医療法人が行うこととなります。

退職金は買収する医療法人から支給することとなるため、法人内の現預金で賄いきれない場合は、医療法人名義で資金調達を行うこととなります。買い手は譲渡対価を支払う代わりに、その返済を継承した医療法人で行っていくことになります。

 

Ⅳ.  おわりに

 「出資持分譲渡」「退職金支払い」それぞれの留意点について確認いただきましたが、いかがでしたでしょうか。特に売り手としては、額面でしか譲渡対価を捉えておらず想定より手取額が少なくなってしまった。買い手としては、資金調達すべき主体が理解できていなかった、またタックスプランニングがしっかりできていなかったといった問題が生じないように、あらかじめ明確にしておくことが望ましいです。

医療法人は、株式会社とは違った論点も多々ありますので、医療MAに精通したMAアドバイザーや税理士に相談しながら、取引を進められることをお勧めします。

 

 

 

執筆者:飯田 光(いいだ ひかる)

コンサルティング事業部グループリーダー・税理士

経歴:

国内最大手「日本経営ウィル税理士法人」へ在籍中、メガバンクへ出向し事業承継業務に従事。その後、マネーフォワードグループ税理士法人にて、中小企業向けにクラウド型会計システムを駆使し先進的な税理士業務を行う。現在、弊社コンサルタントとしてM&A仲介に加え、弊社グループ「G.CFACTORY会計事務所」へ寄せられる税務会計・財務に関する買収監査にも従事。

資格:

税理士

M&Aエキスパート(事業承継・ M&A エキスパート協会/運営:日本M&Aセンター)