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クリニックM&A

医療法人の5つのM&Aスキームを種類別に専門家が解説

Ⅰ.はじめに

医療法人のM&Aは、株式会社などの一般的な会社のM&Aと異なる点が多々あります。また医療法人の種類によっても、選択できるM&Aのスキームも異なります。

このコラムでは、医療法人を継承したい方に向けて、ご自身の医療法人の種類やM&Aニーズに応じて、どのスキームが選択肢に入るのか、専門家がわかりやすく解説します。

 

Ⅱ.医療法人のM&Aとは?

M&A(Mergers and Acquisitions)とは、法人の合併・買収のことです。2つ以上の法人を合併によって1つにしたり、法人や事業を売買(譲渡)したりすることを指します。

M&Aというと、強制的な買収を思い浮かべる方もいるかもしれません。しかし、これは株式を誰もが自由に購入できる上場企業のケースです。

医療法人の場合、オーナーや経営陣の同意なしに、強制的に買収するのは不可能です。そのため、医療法人のM&Aは、友好的M&Aとして売り手・買い手双方の同意のもとに行われることがほとんどです。

医療法人のM&Aの需要が高まったのは、後継者不足の深刻化です。以前は世襲制によって、ご子息・ご息女が医療法人を承継するケースが多かったのに対し、最近はご子息・ご息女が承継を希望されないケースも増えてきています。

ただでさえ、医師になるための医学部受験はとても難しいことに加えて、医師になれたとしても診療科目が異なったりすることもあり、一般の事業会社よりもハードルが高いのがその理由です。

 

一方、分院展開して積極的に事業拡大する医療法人も増えてきました。また、競合医院が増えたことにより、新規開業ではなく承継開業を希望する医師も増加しています。

このような背景から、買い手・売り手双方で、医療法人を第三者が承継するM&Aのニーズが高まっています。

 

Ⅲ.医療法人のM&Aスキームにかかわる出資持分

医療法人には、「出資持分あり」の医療法人と「持分なし」の医療法人があります。持分の有無はM&Aのスキームに影響するため、それぞれの違いを簡単に解説します。

「持分あり」の医療法人とは、出資者の財産権が認められた医療法人のことです。「持分あり」の医療法人では、出資持分の払戻請求が可能です。仮に医療法人の設立時に1,000万円全額を出資しており、長年の医院運営によって医療法人の時価が1億円になっていたとすると、1億円の払戻請求が可能です。

 

医療法人のオーナーにとっては安心感があるかもしれませんが、相続財産として課税されてしまうため、一長一短というのが実情です。そして、制度改正によって、平成19年4月1日以降「持分あり」の医療法人は設立できなくなりました。

「持分なし」の医療法人は、平成19年4月1日以後に設立された、財産権のない医療法人のことです。残余財産の帰属先は、国や地方公共団体等です。「持分なし」の医療法人の1つである基金拠出型医療法人では、仮に医療法人の設立時に1,000万円出資し、長年の医院運営によって医療法人の時価が1億円になったとしても、財産として受け取れるのはあくまで拠出した1,000万円のみです(退任する場合、退職金等の支払いは可能です)。

 

厚生労働省によると、2021年3月31日時点で「持分あり」の医療法人は38,083件、「持分なし」の医療法人は17,848件で、社団医療法人のうち約68%が「持分あり」の医療法人です。

基本的に、社会医療法人や特定医療法人、特別医療法人に該当せず、平成19年3月31日以前に設立された医療法人であれば、「持分あり」であることがほとんどです。逆に、平成19年4月1日以降に設立された医療法人であれば、「持分なし」となります。

続いては、出資持分の有無によって異なるM&Aスキームについて解説します。また、医療法人全体ではなく、一部の事業のみ譲渡する事業譲渡についても解説します。

 

Ⅳ.「持分あり」の医療法人の出資持分の譲渡

「持分あり」の医療法人では、財産である出資持分を譲渡することで、医療法人の譲渡が可能です。出資持分は株式会社でいうところの株式にあたります。そのため、売却や贈与が可能です。M&Aでは、売り手が買い手に出資持分を売却し、買い手が売り手に譲渡対価を支払うことが一般的です。多くの医療法人では、オーナーである医師が、理事長や社員を兼ねています。

理事とは医療法人の経営を行う者であり、株式会社でいうと取締役が近い立場になります。つまり理事長とは、経営の意思決定を担う存在であり、株式会社の代表取締役が近い立場になります。また、社員とは理事の選任など重要な事項において議決権を持つ存在で、株式会社でいうと株主が近い立場になります。

M&Aでは、出資持分を譲渡してオーナーを譲るとともに、役員変更・社員変更の手続きで、理事長や社員の立場も譲る必要があります。

 

Ⅴ.「持分なし」の医療法人の基金の譲渡

「持分なし」の医療法人の1つである基金拠出型医療法人の場合、出資持分の代わりに基金を譲渡します。あわせて、「持分あり」の医療法人の場合と同様、役員変更・社員変更の手続きによって、理事長や社員の立場を譲ります。

 

Ⅵ.医療法人の合併

医療法人のM&Aでは出資持分のありなしに関わらず合併というスキームを用いることも可能です。合併の1つである「吸収合併」では、合併後、一方の医療法人を残し、他方の医療法人は消滅します。それにともない、消滅した医療法人の権利義務等はすべて残った医療法人に引き継がれます。

合併の場合、医療法人成りと同じ医療審議会を経て行政の許可を取る必要があり、出資持分の譲渡や基金の譲渡と比べて時間がかかる傾向があります。

 

Ⅶ.医療法人の分割

平成28年から、医療法の一部が改正され新たに分割について規定されたことで、医療法人でも分割が可能となりました。分割では、特定の事業のみを分割し、他の医療法人に引き継ぐことが可能です。

分割には「新設分割」と「吸収分割」があります。「新設分割」では、新たな医療法人を設立し、事業を引き継ぎます。「吸収分割」では、既存の医療法人に事業を引き継ぎます。

分割ができるのは、「持分なし」の医療法人だけです。まだ「持分なし」の医療法人の数自体が少なく、分割も新しい制度であるため、分割が行われた事例は多くはありません。ただ、今後は手広く事業を行う病院等で、分割が増えていく可能性があります。

 

Ⅷ.一部の事業だけM&Aする事業譲渡

医療法人そのものは手放さずに、事業の一部のみを譲渡することも可能です。医療法人のM&Aの多くは、売り手が年齢や病気等の理由で医療法人を継続できない場合に行われます。

複数の事業を行う株式会社等では、事業譲渡はよく用いられる手法で、医療法人でも分院展開している場合に用いられる手法です。事業譲渡の場合、特定の事業に関する財産や負債、従業員、権利義務のみ売却することが可能です。売却後も、売り手は法人として存続します。

病院やクリニックなどの医療機関を譲渡した場合、廃止・開設が必要で、手続きが煩雑になりがちです。また、どの範囲までを譲渡するのか、権利義務をどのように移転するのか、個別に取り決めなければなりません。合併の場合と同じく、期間に余裕を持ってM&Aを進めていく必要があります。

 

Ⅸ.多様なM&Aスキーム、選択は専門家の意見も踏まえて慎重に

ひとくちにM&Aといっても、さまざまなスキームがあり、それぞれにメリット・デメリットが存在します。また、スキームによって手続きの流れや難易度、M&Aにかかる期間も変わります。どのスキームを選択するかは、専門家の意見も踏まえながら、慎重に検討しましょう。医療法人は一般的な法人とは違い、医療法が適用され、都道府県の認可を取得して初めて設立できます。M&Aにおいても、さまざまな行政手続きが発生します。医療法人のM&Aは特殊性が強いことから、医療法人のM&Aに精通した専門家に相談することが大切です。

 

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【参考】

・法人譲渡については以下も合わせてご参照ください。

 過去コラム:今更聞けない医療機関M&Aの基礎(法人譲渡編)

・出身持分のあり、なしのメリット・デメリットに関しては以下をご参照ください。

 過去コラム:医療法人のM&Aでは持分あり/なしに要注意!メリット・デメリットとは 

 

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