G.C FACTORY編集部

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医療法人のM&Aでは持分あり/なしに要注意!メリット・デメリットとは

Ⅰ.はじめに

医療法人のM&Aを考えるなら知っておきたい、医療法人の持分あり・なしの違い。この記事では、医療法人の持分あり・なしの意味と、M&Aにおける影響、買収側からみたメリット・デメリットをわかりやすく解説します。医療法人のM&Aを検討中の方はぜひ参考にしてみてください。

 

Ⅱ.医療法人には「持分あり」「持分なし」と大きくわけて2種類がある

社団医療法人には、持分のある医療法人と、持分のない医療法人があります。まずはそれぞれの違いをみていきましょう。

 

「持分あり」の医療法人とは、簡単にいうと、出資者の財産権が認められた医療法人のことです。具体的には、社員の退社時や医療法人の解散時に、出資持分の保有割合に応じて純資産を払い戻すことができます。財産権が認められているというと、出資者にとって有利に思えますが、医療法人の評価額が個人の財産となり、相続税の対象になるということでもあります。そのため、一長一短というのが実際のところです。

平成19年4月1日以後、「持分あり」の医療法人は設立できなくなりました。2021331時点で持分ありの医療法人は38,083件、持分なしの医療法人は17,848件でした。社団医療法人のうち約68%が「持分あり」医療法人であり、持分ありが多いことがわかります。また、M&Aの場合は比較的設立後年数が経ってから譲渡を考えるケースが多いことからか、弊社の売り手側のお客様の割合はこの割合よりも更に持分ありが多いように感じています。

財産権が認められていること、今後は設立できないことから、「持分あり」の医療法人はM&Aにおいて人気がある傾向があります。また持分あり医療法人には、「出資持分あり医療法人」のほかに「出資額限度法人」があります。出資額限度法人とは、払い戻しの際に、払い込み出資額を限度とする旨を定款で定めている法人を言います。この出資額限度法人と持分あり医療法人をまとめて、経過措置型医療法人と呼ばれています。

「持分なし」の医療法人とは、定款に出資持分に関する定めのない医療法人のことです。持分がない医療法人自体は、特定医療法人や社会医療法人も該当しますが、社団の持分なしの医療法人には、出資持分のない医療法人と基金拠出医療法人の2つがあります。基金拠出型医療法人では、社員の退社時や法人の解散時に一定の条件を満たせば基金の額の払い戻し請求が可能となります。これは持分ありの医療法人と異なり、基金の保有率は関係なく、基金の金額を払い戻せるという意味です。

「持分なし」の医療法人が設立できるようになってから、まだ10年と少ししか経っていません。そのため、「持分なし」の医療法人のM&A事例は、「持分あり」の医療法人と比べて少ない傾向があります。

 

Ⅲ.買収側から見たメリット・デメリット

続いて、買収側から見た場合のM&Aにおけるメリット・デメリットを整理しました。

 

「持分あり」の医療法人の出資持分は財産です。M&Aで出資持分を譲り受けた場合、その出資持分の保有者が医療法人の社員である場合、払戻(はらいもどし)請求権が認められます。払戻請求権とは、前述の通り出資割合に応じて医療法人から払い戻しを受けられる権利のことです。配当が認められていない医療法人において、資金を引き出す選択肢が増えることはメリットと言えますが、実際には、この出資の払い戻しができない持分なしの医療法人であっても、計画的に役員報酬や役員退職金を計算して、医療法人に財産を貯めこまないようにすることに寄って代替できます。その意味ではこの払い戻し請求権が無いと絶対に困るとは言えないです。ただ出資持分を100%保有していれば、仮に社員総会で他の社員から裏切りをされてしまったとしても、純資産の100%を払い戻し請求をすることができます。その意味では裏切りダメージを最小限にできるとともに裏切りの抑止の効果を持つとも言えます。よって明確に財産として認められていることは、買収側のメリットといえるでしょう。また、今後「持分あり」の医療法人は設立できないため、M&Aでしか手に入れることができません。その意味では、将来今回買収した医療法人の売却を考えた際に、「持分あり」を望んでいる候補者にも紹介が可能になる点はメリットと言えます。

一方デメリットは、出資持分を相続財産に含める必要があり、多額の相続税がかかるリスクがあることです。医療法人は非営利性の観点から、株式会社とは異なり配当が認められていません。そのため、事業の成長とともに、出資金の相続税評価額はどんどん膨れ上がります。結果として、多額の相続税がかかるケースが多発しています。「出資持分あり」の医療法人を買収するなら、相続税対策が必要という点を押さえておきましょう。

 

「持分あり」の医療法人と表裏一体の部分で、相続税対策が必要ないという点がメリットです。先述の通り「持分なし」の医療法人でも、理事に入っていれば、役員報酬や退職金としてこれまで積み上げてきた利益を受け取ることは可能です。その意味では、わざわざ「持分あり」を選ばなくても、運用面でカバーは可能といえます。

一方デメリットは、退職金で払い出せない金額が残った場合や、今後退職金の制度や税制に改定が加わった場合です。ただし、制度改定はどうなるか分からないですし、経過措置などもあるはずなので過剰な心配をしてデメリットと考える必要性は低いです。

 

 

Ⅳ.総合的な情報をもとにM&Aの意思決定を

結論としては、持分あり、なしどちらもメリット、デメリットがあり、出資金以外の財産状況、後継者に引き継ぐ予定の有無など、状況や考え方によって選ぶべき選択肢は変わってきます。またどちらのデメリットも運用面でカバーをしていくことが可能です。つきましては、重要なことはその特徴を理解しておくことです。持分の有無だけで買収先を判断するのではなく、総合的な情報をもとにM&Aの意思決定をすることが大切です。

 

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執筆者:金子 隆一(かねこ りゅういち)

(株)G.C FACTORY 代表取締役

 

経歴:

国内大手製薬会社MR、医療系コンサルティングファームである(株)メディヴァ、(株)メディカルノート(コンサルティング事業部責任者)を経て、2020年4月、(株)G.CFACTORY設立、代表取締役に就任し、現在に至る。医療系M&A、新規開業支援、運営支援において実績多数。

 

実績・経験:

・開業支援(約50件)、医療機関M&A(約60件)、医療法人の事務長として運営を3年間経験

・複数の金融機関、上場企業におけるM&A業務顧問に就任

・大規模在宅支援診療所、美容クリニックチェーンのバックオフィスの設計及び実行責任者を兼任