G.C FACTORY編集部

新規開業、承継開業

産婦人科のM&A動向は?M&Aを成功させるコツや経営戦略を紹介

I. はじめに

近年、クリニックの出口戦略や成長戦略として、M&Aが注目されています。クリニック経営は診療科によって大きく異なることから、産婦人科のM&Aを検討するにあたり、産婦人科ならではのポイントを知りたいと考える方も多いでしょう。

 

今回は、産婦人科の売り手・買い手双方のニーズや、M&Aを成功させるために考慮すべきポイント、これからの時代の産婦人科の経営戦略について解説します。

 

II. 産婦人科を売りたい理由

以前は、どの診療科目もご子息・ご息女が後継者となることも多くありましたが、最近では、医学部の難化なども起因して、医師以外の道を志したり、仮に医師になったとしても異なる診療科を選択したりするケースも増えてきました。また、診療報酬改定、競合の増加、人件費の高騰などによって、クリニックを取り巻く経営環境はめまぐるしく変化しています。そのため、仮に同じ診療科であっても、親族間継承を行わず、勤務医として働くことを希望するケースもあります。

 

そんな中、クリニックの出口戦略の1つとして、M&Aのニーズが高まっています。親族等に後継者がおらず、M&Aを選択しない場合、廃業することになります。しかし、廃業するにあたり、内装の現状復帰や医療機器の処分など、数百万円の廃業コストがかかるケースも少なくありません。廃業手続きは非常に煩雑で、医療法人の場合、そもそもすぐには廃業できないこともあります。また産婦人科の場合は、現在通院している患者さんのお産が終わるまでは診察を続ける選択をする場合は、新規の受け入れはせずに、診療体制(人件費や家賃など)を維持しなくてはならず、その間の赤字も膨らむ可能性があります。

 

M&Aであれば、譲渡対価を得ることができ、勇退後の生活にもゆとりが生まれます。長年通院してくれた患者や長年勤めてくれたスタッフを、新しい経営者へと引き継ぐことができ、精神的にも安心して勇退生活を送れます。このように廃業と比べてメリットが大きいことから、出口戦略としてM&Aが選ばれることが増えてきています。

 

産婦人科は、立地や患者数にもよりますが、いつお産が生じるかわからないのでなかなか休みを取りにくいです。そのため、一定の財産を築いたタイミングで、早期リタイアを検討する医師もいますが、その際に内装など大きな設備投資の為の借入が残っており、引退の際に廃止ができず売却という選択肢を取るしかないというケースもあります。

 

III. 産婦人科を買いたい理由

 

最近は、全体の傾向としても、競合クリニックが多いことなどから、新規開業より承継開業を希望する医師も増えてきています。承継開業であれば、既存の患者や熟練のスタッフを引き継ぐことができ、初期投資額も新規開業より安く抑えられる傾向があります。特に産婦人科は有床診療所であるため不動産取得費や設備投資が高額になりやすく、一から開業する場合は多額なコストがかかるため、医師が開業するときの選択肢として継承開業がお勧めの診療科目です。

 

M&Aのメリットの1つとして、よく「時間を買う」と表現されます。新しく分院を設立する際に、競合クリニックや人口動態等を調査して開業地を決め、地域の認知度向上に努め、ゼロから患者を増やしていくまでには時間がかかります。一方M&Aなら、市場調査や認知度向上に手間をかけることなく、既存の患者を引き継げます。手間も新規開業よりも継承の方が少なく開業ができます。有床診療所の不動産を取得して、一から建物を建て、内装工事をして開業準備をするとなると、1年を超える開業準備期間がかかりますが、継承ならば一般的に3~6か月で継承開業ができます。

 

また、産婦人科においては、ベッド数の確保が重要です。新たに産婦人科を開設しようとしても、都道府県の基準病床数を超える場合、開設許可が下りないことがあります。産婦人科は一般病床とは分けて認可が出るとはいえ、手続きの手間もあり、最初からベッド数を確保できることも、買い手にとっての産婦人科M&Aのメリットです。

 

IV. 産婦人科のM&Aで売り手・買い手が考慮すべきポイント

 

続いて、産婦人科M&Aを成功させる上で、売り手・買い手が見ておくべきポイントをまとめました。売り手は、自分のクリニックを分析し、強みを把握した上できちんとアピールしていくことが重要です。買い手は、M&Aを検討する際の見極めポイントとして参考にしてください。 

 

●立地

産婦人科は他の診療科目と同じく、アクセスのしやすさが重要です。駐車場の台数は十分確保されているのか、駅からのアクセスはどうかなど、地域の状況をよく確認しておきましょう。タクシーが乗り入れしやすいかどうかも重要です。また、周辺の競合クリニックの診療科や診療内容、ホームページの充実度などをチェックしておくことも大切です。

 

 

 

市場は、ご存知の通り、少子高齢化が進んでいます。過疎地域で人口が減ると言っても、例えば内科など、高齢者の患者さんが多い診療科目の場合は、人口は減っているものの、患者数はむしろ増加しているということが起こり得ると思いますが、産婦人科の場合は少子高齢化の加速の影響がより早く出てきますので、市場調査の際に将来の推計人口なども確認をしておく必要があります。

 

内装

産婦人科の患者は若い女性が多いので、クリニックの雰囲気や内装はより重要なポイントです。古い案件を継承する場合は、M&Aと同時に、内装のリフォーム工事をするのも1つの選択肢です。壁と床を張り替えるだけであれば数日で終わりますので休診にする必要ないですし、間仕切りが変わらなければ行政手続きも不要です。そしてそれでも十分見違えるのでお勧めです。

 

●医療機器

医療機器の状態も、M&Aにおける重要なポイントです。正常に動くかどうかはもちろんですが、M&Aと同時に入れ替えた方がいい医療機器などは、あらかじめピックアップしておくとスムーズです。その際に古い機器の処分代をどちらが負担するかについても双方で話合いを行うと良いです。

 

各種システムも同じくM&Aと同時に見直すことがお勧めです。M&Aの場合は、院長先生がご高齢の場合が多く、紙カルテや電話予約を導入しているクリニックが多いです。ただ、産婦人科の場合は患者さんの年齢が若いことが多いので、M&Aをきっかけにこれらのシステムを見直すことがお勧めです。

 

 

●スタッフ

承継開業の場合、熟練のスタッフがいると、医師は診療に専念できて心強いといえます。最近はクリニックを選ぶ上でもホスピタリティが重視される傾向にあり、スタッフの対応1つで、患者離れが起きることもあります。熟練のスタッフの有無は、売り手・買い手双方に重視しておきたいポイントです。その一方で、特に法人譲渡の場合は、待遇などが周辺と比べて高すぎたりしないか注意です。また逆に安すぎる場合も一見良いと思われますが、追加採用をする際に、求人の待遇が現スタッフの報酬を超えてしまうということが起きないように注意が必要です。

 

また、前院長が非常勤などで継承後も残ってくれる場合もあります。産婦人科は、個人開業ですと当直などでどうしても院長の負担が大きくなってしまうのでそのクリニックの勝手を知った前院長が手伝ってくれるのはメリットと言えます。

 

V. 産婦人科の医師数の増減や地域差

 

続いては、産婦人科の業界動向を知るため、統計データを見ていきましょう。

日本の周産期医療は世界トップレベルの水準といわれています。

ユニセフの「世界子供白書2019」によると、日本の妊産婦死亡率(–出生10万人当たりの女性の死亡数)は5人で、アメリカの19人やイギリスの7人と比較しても少ないことがわかります。また、東アジア・太平洋諸国の妊産婦死亡率69人と比較しても、高水準な医療が提供され妊産婦の命が守られていることがわかります。

 

一方、産婦人科の医師不足による「妊婦のたらい回し」がメディアで報じられることがあります。

 

医師不足の現状について、厚生労働省の「医師・歯科医師・薬剤師統計(平成26年・平成28年・平成30年)」をもとに確認していきましょう。

調査結果を見ると、医師総数の増加率に比べ、産婦人科・産科医師数の増加率が低いことがわかります。一方、婦人科医指数は医師総数より増加率が高くなっています。

 

続いて、施設別に見ていきましょう。

 

<病院>

 

<診療所>

 

病院の産婦人科・産科医師数の増加率は、病院医師総数の増加率より低くなっています。また、診療所の産婦人科・産科医師数は、平成26年から平成28年にかけては増加していますが、平成30年は減少しています。

 

都道府県別の医療施設に従事する人口10 万対産婦人科・産科医師数を見ると、全国平均44.6人に対し、最も多い鳥取県は64.0人、最も少ない埼玉県は30.3人と、2倍以上の開きが生まれています。特に埼玉県、千葉県、神奈川県の産婦人科・産科医師数が少ない傾向があります。また、関東圏や都市部以外に、滋賀県や青森県、北海道などでも、産婦人科・産科医師数が全国平均を下回っています。

 

統計データを見ると、産婦人科・産科医師数は増加しているものの、医師総数と比べると増加率が低く、地域ごとにかたよりが生まれていることがわかります。このようなかたよりによって、医師不足が生じていると考えられます。

 

これは、診療所の経営という面で見れば、「競合が少ない診療科目」と言い換えることができます。訴訟のリスク、厳しい労働環境、などもあり、かつ設備投資も大きくなりがちな診療科目ですので、新規で産婦人科を開業することはハードルが高いですが、その分開業した時、成功がしやすいと考えることもできます。そして、いざ開業される際には市町村レベルで上記の様な人口対比の施設数を調査してみることをお勧めします。

 

VI. これからの産婦人科クリニックの経営には戦略が必要

 

産婦人科は、規模が大きくなりがちで、医師1人が新規開業するにはハードルが高い診療科目でもあります。その意味でM&Aとの相性が良い診療科と言えます。

そして、産婦人科は、お産という重要なライフイベントに関わることから、クリニックを選ぶ上で患者はクリニックや口コミなどをしっかりと調べます。そういったことを加味して、継承先を選び、継承後に適切な対応をしなくてはなりません。弊社では産婦人科のM&Aも、M&A後の継承開業も経験を有しています。もしもご検討中の先生がいらっしゃいましたらお気軽にご相談ください。

 

 

執筆者:金子 隆一(かねこ りゅういち)

(株)G.C FACTORY 代表取締役

経歴:

国内大手製薬会社MR、医療系コンサルティングファーム「(株)メディヴァ」、「(株)メディカルノート」コンサルティング事業部責任者を経て、2020年4月、(株)G.CFACTORY設立、現在に至る。医療系M&A、新規開業支援、運営支援において実績多数。

実績・経験:

・開業支援(約50件)、医療機関M&A(約40件)、医療法人の事務長として運営を3年間経験

・複数の金融機関、上場企業におけるM&A業務顧問に就任

・大規模在宅支援診療所の業務運営の設計及び実行責任者を兼任