G.C FACTORY編集部

診療科目別

心療内科・精神科クリニックのM&A動向|承継開業を成功させるポイント

Ⅰ.はじめに

メンタルヘルスへの注目度が高まると同時に、心療内科・精神科クリニックも増加傾向にあります。M&Aによる承継開業を考えている人も多いでしょう。心療内科・精神科クリニックのM&A動向や、M&Aによる承継開業を成功させるポイントをわかりやすくお伝えします。

 

Ⅱ.メンタルヘルスへの注目度が高まり心療内科・精神科は増加傾向

 

2021近年、メンタルヘルスへの注目度が高まるとともに、心療内科・精神科を受診する人も増えてきています。また、コロナ禍による外出自粛が続く中、抑うつ状態に陥る人が増え「コロナうつ」という言葉も生まれました。

 

社会的なニーズの高まりとともに、心療内科・精神科の診療所医師数は増加傾向にあります。

厚生労働省の「医師・歯科医師・薬剤師統計(平成26年・平成28年・平成30年)」によると、診療所に従事する医師数は次のように変化しています。

 

  平成26年 平成28年 平成30年
所医師数 101,884 102,457 103,836
精神科医師数 3,774 3,862 4,039
心療内科医師数 617 646 640
心療内科・精神科合計 4,391 4,508 4,679

 

平成26年から平成30年にかけて、全体の診療所の医師数は1.9%の増加ですが、心療内科・精神科を合計した医師数は6.6%増加しています。医師数の推移をみると、心療内科・精神科クリニックは増加していると予測できます。

 

Ⅲ.医療業界のM&Aニーズの高まり

同調査によると、診療所に従事する医師の平均年齢の推移は次の通りです。

 

平成18年 平成20年 平成22年 平成24年 平成26年 平成28年 平成30年
平均年齢 58.0 58.0 58.3 58.7 59.2 59.6 60.0

 

平成18年以降、毎年平均年齢が上昇しており、診療所医師の高齢化が進んでいることがわかります。クリニックでは、後継者不足の問題が深刻化しています。最近では、両親のクリニックを引き継ぐより、病院で勤務し続けることを望んだり、自分が希望する診療科で開業したいと考えたりする若い医師が増えてきています。このような背景から、出口戦略の1つとしてM&Aを選択する医師が増えてきました。平成18年以降、毎年平均年齢が上昇しており、診療所医師の高齢化が進んでいることがわかります。

M&Aのメリットは、後継者不足の解決だけではありません。M&Aによってクリニックを引き継ぐ「承継開業」が注目を集めています。

 

厚生労働省の「医療施設(動態)調査・病院報告の概況(令和元年)」によると、一般診療所の開設数・廃止数は次の通りです。

 

平成23年

平成24年

平成25年

平成26年

平成27年

平成28年

平成29年

平成30年

令和元年

開設数

4,747

4,922

5,435

7,216

7,353

7,206

7,674

7,339

7,768

廃止数

4,450

4,047

4,702

6,730

6,470

6,361

7,168

6,421

6,982

 

 

約10年にわたって、開設数が廃止数を上回る状況が続いています。いざ開業しようと思っても、競合の多さから、開業地を探す段階でつまずくケースも少なくありません。その後、実際に開業して患者の認知を獲得し、事業を軌道に乗せるまでにはさらなる努力が必要です。

このような背景から、従来の「新規開業」ではなく、M&Aによって既存のクリニックを引き継ぐ「承継開業」を希望する若い医師も増えてきています。

 

Ⅳ.心療内科・精神科クリニックのM&A を成功させるポイント

 

心療内科・精神科を取り巻く環境や、医療業界でM&Aが増加している背景をお伝えしました。心療内科・精神科クリニックでM&Aをするにあたり、具体的にどのような点に注意すればいいのでしょうか?

 

●患者の引き継ぎ

 

心療内科・精神科の場合、他の診療科と比較して、患者とドクターの相性が治療に大きな影響を及ぼします。自分に合うドクターを探して複数のクリニックを転々とし、「この先生ならば」と信頼を寄せて通院している患者もたくさんいます。

 

そのため、M&Aでドクターが変わることに抵抗感を持つ患者も多い傾向があります。このような心療内科・精神科の特徴を踏まえ、通常のM&Aよりも慎重に患者の引き継ぎをしていく必要があります。それに加えて、売り手の院長に非常勤医として継続勤務いただくことも良いです。売り手も週5で管理医師として勤務するのは難しいとしましても、週1などで勤務ならば可能ということも多いです。どうしても医師を変えたくない患者さんはその日に受診をいただくことで売上の減少を防ぐことができます。

 

あとは、どのような伝え方をすれば患者が安心感を持って引き続き通ってくれるか、売り手ドクターともよく話し合いましょう。

 

「医師は変わるけど、これからもここに通えるから」と伝えるだけでは、患者は安心できません。その際に、買い手院長の人柄やエピソード、関係性などを一言添えるだけでも、印象は違ってきます。

 

また、買い手ドクターは売り手ドクターから患者情報をしっかり引き継ぎ、最初の診察で「引き継ぎを受けているのだな」と患者が思えるような声掛けをすることも大切です。

 

時間的に可能であれば、患者の了承を得た上で、売り手ドクターの診察に買い手ドクターが同席し、3者で話す場を設けるといいでしょう。売り手ドクターがいる状況で信頼関係を築ければ、患者離れが起きる可能性は減ります。

 

●ホームページの充実

 

承継開業後は、既存の患者を引き継ぐことにくわえて、新規患者を獲得していくことも大切です。そのカギとなるのがクリニックのホームページです。

 

心療内科・精神科は、他の診療科と比べて、ホームページで検索して来院する患者が多い傾向があります。受診者の年齢も他の診療科目に比べて若い人が多いですし、住んでいる場所の近くだと人目が気になるので、あえて何駅か離れたクリニックに通うという人もいます。

 

また、心の病を抱えている患者は、不安にさいなまれています。「本当にこのクリニックは信頼できるだろうか」と、ホームページの情報を読み込む傾向があります。そのため、診療時間や地図などの一般的な情報にくわえ、心の病に関するコラムなどを掲載しておくと、信頼感が芽生え来院につながりやすくなります。

 

ホームページを読み込んだ患者が正しい知識を持って来院してくれるようになれば、診察がスムーズになるというメリットもあります。患者・ドクター双方にメリットがあるため、自分の診療方針や人柄が伝わるようなホームページを作り、情報を充実させましょう。

 

●スタッフ教育

 

M&Aでは、クリニックで働くスタッフも一緒に引き継ぐことが一般的です。医療法人化している場合、雇用契約は医療法人とスタッフの間で結ばれているからです。また、スタッフの雇用を守りたいというのは売り手ドクターの1つの願いでもあります。

 

しかし、売り手医師と同年代のスタッフだと、M&Aのタイミングで自分自身も退職を願い出るケースがあります。M&A後に人手不足が懸念される場合、新たなスタッフを雇用しなければなりません。

 

心療内科・精神科では、スタッフの対応が患者満足度に大きく影響を及ぼします。心理士のカウンセリングを行っている場合は、その心理士が退職するとなると丁寧な引継ぎが重要です。医療事務としても、精神的に弱っている患者さんに対しては、スタッフの何気ない態度に深く傷ついてしまうことがあります。

 

そのため、スタッフ面接では、スキルだけでなく人柄や患者への対応力を見極めることが大切です。面接に「患者対応」「電話対応」などのシミュレーションを取り入れ、ドクターが患者役を演じて即興での対応力を見るのもいいでしょう。

 

また、長く勤めており、患者からも信頼の厚いスタッフがいる場合、そのスタッフと新しいスタッフの相性も重要です。新しいスタッフとの間に摩擦が生まれ、長年勤めたスタッフが辞めてしまうと、患者離れを招く可能性があります。場合によっては、長年勤めたスタッフにも面接に同席してもらってもいいでしょう。

 

Ⅴ.終わりに 心療内科・精神科クリニックには大きな将来性がある

 

近年、自分自身の心の病についてオープンに公表する著名人が増えてきています。これまでは、「周囲にバレたくない」という気持ちから通院したくてもできなかった人、拒否感が強く心の病に自分でも気づけなかった人もたくさんいたことでしょう。今後、このような流れが変わることで、心療内科・精神科クリニックのニーズは高まっていくと予想されます。

 

大きな将来性を秘めた診療科だからこそ、経営を軌道に乗せやすい承継開業を選択肢の1つとして検討してください。

 

 

執筆者:金子 隆一(かねこ りゅういち)

(株)G.C FACTORY 代表取締役

 

経歴:

国内大手製薬会社MR、医療系コンサルティングファーム「(株)メディヴァ」、「(株)メディカルノート」コンサルティング事業部責任者を経て、2020年4月、(株)G.CFACTORY設立、現在に至る。医療系M&A、新規開業支援、運営支援において実績多数。

 

実績・経験:

・開業支援(約50件)、医療機関M&A(約40件)、医療法人の事務長として運営を3年間経験

・複数の金融機関、上場企業におけるM&A業務顧問に就任

・大規模在宅支援診療所の業務運営の設計及び実行責任者を兼任