G.C FACTORY編集部

クリニック売却価格

クリニックM&Aで高く売却する7つのポイント

Ⅰ.はじめに

クリニックのM&Aを考え始めた時、気になるのは「自分のクリニックはいくらで売却できるのか」という点ではないでしょうか。
今回は、譲渡価格の仕組みを解説し、クリニックを高く売却するためのポイントをわかりやすく紹介します。
M&Aを成功させたいと考えておられる経営者の方々にはぜひ参考にしていただきたいと思います。

 

 

Ⅱ.クリニックのM&Aは増加傾向にある

今、多くのクリニックが経営者の高齢化と、それによる後継者問題を抱えています。

厚生労働省の「医療施設(動態)調査・病院報告の概況:Ⅰ・医療施設調査(令和元年)」によると、
平成30年10月から令和元年9月までの1年間で、廃止した一般診療所は6,982件でした。医療法人に開設者変更などもありますし、
例えば移転をしたとしても「廃止」に数えられてしまうので、 すべてが経営者の高齢化による廃業とは断定できませんが、
この数字を見ても、多くのクリニックが後継者不足に悩んでいることが推測できます。

後継者不足に悩んでいるのは、クリニックだけではありません。中小企業においても経営者の高齢化が進み、
その結果、2009年には約2,000件だったM&A件数が、2019年には約4,000件に達しました(レコフデータのマールオンラインより)。
10年間でおよそ2倍になったことがわかります。

医療機関も例外ではなく、クリニックにおいても、M&Aを選択する経営者が増加しつつあります。
M&Aを選択するとは、クリニックの場合合併はほとんどないので多くは、第三者にクリニックを売却すること
(買い手から見ると、買収・譲受をすること)をいいます。廃業は、スタッフへの解雇予告手当、内装の現状回復コスト、
古い医療機器の処分代など、数百万円単位のコストがかかることも少なくありません。
しかし、M&Aを選択することによって、廃業コストがかからないことに加え、買い手から譲渡対価を受け取ることが可能にもなります。
クリニックが存続することで、患者さんやスタッフの雇用を守ることにもつながります。

近年は、競合医療機関の増加や、OTC医薬品の増加、診療内容によっては診療報酬のマイナス改定などもあり、
以前と比較して、クリニックの経営は厳しさを増しています。そのため、最近では、開業をするにあたり安全策を考える医師も増えており、
M&Aによって既存のクリニックを譲受して開業する、いわゆる「承継開業」も増加傾向にあります。
譲渡価格が決まる仕組みを理解し、正しい対策によって自身のクリニックを高く売却できる可能性があるのです。

 

Ⅲ.クリニックの譲渡価格が決まる仕組み

M&Aの譲渡価格の計算方法には、コストアプローチ・インカムアプローチ・マーケットアプローチの3つがあります。
このうち、クリニックのM&Aでは、コストアプローチが採用されることが一般的です。コストアプローチにもいくつかの計算方法がありますが、
その中でも時価純資産法が多く用いられています。
時価純資産法とは、「時価純資産+営業権」で譲渡価格を決める計算方法です。時価純資産とは、帳簿上の資産を時価で評価した金額のことです。
営業権とは、時価純資産以外のクリニックの「価値」に対してつけられる価格で、所謂「のれん代」といわれることもあります。
経験豊富なスタッフや地域での認知度なども含めて、潜在的なクリニックの魅力が、営業権として評価されます。
また、「年間利益の〇年分」といった形で営業権の価格を決めることもあります。そのため、営業権の価格は、
クリニックによって大きく変わってきます。

 

Ⅳ.高く売却するポイント

≪時価純資産≫

M&Aでクリニックを高く売却するには、いくつかのポイントを押さえておく必要があります。
まず、時価純資産についてのポイントをお伝えします。

 

①償却が進まない早いタイミングで決断する

時価純資産法では、原則として、資産を時価で査定して価格を算出します。
しかし、すべての資産を査定するわけではなく、実際には帳簿上の価格である簿価を用いるケースもあります。

建物や医療機器などの減価償却資産は、経年劣化を帳簿上に反映させるという会計上の考え方から、
購入から時間が経過するほど、簿価が小さくなります。資産ごとに「耐用年数」が定められており、
耐用年数をすべて経過すると、ほとんど帳簿上の価値はなくなります。そうなってからM&Aを決断しても、
希望する譲渡価格で売却できない可能性があります。

そのため、貸借対照表を見て固定資産の帳簿価格を確認し、早い段階でM&Aを決断することも大切なポイントのひとつです。

 

②帳簿と実態のかい離をなくす

クリニックにどのような医療機器があるか把握していても、帳簿上の記載ときちんと突き合わせていないという経営者の方も
いらっしゃるのではないでしょうか。廃棄をしてからうっかり税理士に伝え忘れたりすることはあると思います。
しかし、実際には存在しない医療機器が帳簿上に記載されていると、買い手から疑問を持たれ、最悪な場合、
信頼を失ってしまうこともあるかもしれません。
M&Aを検討し始めた段階で、改めて減価償却明細を確認し、帳簿と実態にかい離がないようにしておくことは大切です。

 

 

■高く売却するポイント

≪営業権≫

続いて、クリニックを高く売却するための営業権のポイントをお伝えします。

 

③売上や利益をアピールする

決算書のうち損益計算書では、1年間のクリニックの事業活動の結果が、数値で表されています。
損益計算書を見て、クリニックのアピールポイントを整理してみてください。

売上や利益が増加傾向にある場合、5年先、10年先の売上や利益の予測を作成することもおすすめです。
他のクリニックと比較して、経費が少なく、利益率(売上に対する利益の割合)が高い場合では、
効率的な経営ができているという点でアピールも可能になります。また、全盛期は大きな利益が出ていたが、
近年は年齢的な理由で診療を縮小している場合もあると思います。その様な場合には参考に
「○年前は売上○○万円、利益〇〇万円」という形で、診療時間や日数を確保していた頃の実績を示して、
市場の良さをアピールしてはいかがでしょうか。

他のクリニックとの比較については、M&A仲介会社や税理士の意見も参考にするとよいでしょう。

 

④スタッフの経験値をアピールする

買い手からすると、新規開業場合は、採用や研修など時間や費用もかかります。その点で、経験豊富なスタッフの
存在は大きな魅力です。スタッフに安心して仕事を任せられる環境であれば、院長は診療と経営に専念できます。
また、優秀なスタッフの存在は、患者満足度にも大きな影響力があります。
クリニックのM&Aでは、スタッフの経験値もアピールポイントとなります。

 

⑤認知度や地域連携をアピールする

新規開業の場合、地域に認知され患者数が増えるまでに、数年の時間を要することも少なくありません。
また、患者紹介などの地域連携のパイプも、一朝一夕で得られるものではありません。このような認知度や地域連携も、
アピールポイントになります。具体的には、病院や他の診療所からの紹介数や、訪問診療の場合はケアマネジャーとの関係性、
学校医や産業医の契約などです。

 

■高く売却するポイント
≪考え方≫

クリニックのM&Aで価格が決まる仕組みに基づいて、時価純資産と営業権それぞれの高く売却するポイントを紹介しました。
最後に、クリニックを高く売却するために大切な考え方として、2つの視点を説明します。

 

 

⑥友好的に交渉する

メディアでは、合意を得ずに株式を買い付ける「敵対的M&A」が報道されることがあります。そのため、M&Aというと、
ネガティブなイメージを持つ方もいるかもしれません。しかし、実際に行われているM&Aは、双方合意のもとに行われる
「友好的M&A」が大半です。特にクリニックの場合、株式会社と異なり、「敵対的M&A」はほぼ存在しません。
M&Aにおいては、売り手・買い手双方とも、友好的な姿勢で交渉に臨まれています。
たとえば、高額な譲渡価格を提示して相手の出方を見るような行動をとった場合、一気に信頼を失ってしまうこともあるでしょう。
また、経営者同士のトップ面談では、「相手を見極めよう」というより、「お互いの価値観や条件をすり合わせよう」という
スタンスで臨むことによって双方にとって望ましい結果を引き寄せていくことに繋がります。

 

⑦買い手も目線を大切にする

譲渡価格は「時価純資産+営業権」で決まるとはいえ、最終的に、買い手が「いくらで買いたいか」によって交渉が行われ、
営業権の金額が変動します。つまり、高く売却するためには、買い手にとって魅力的であるかどうかを検討していくことが必須条件となります。

自分が買い手だと仮定して、どのような点に不安を持つか、どのような点を魅力的だと感じるか、考えてみることも必要です。
買い手目線を大切にすることで、クリニックの魅力をどうアピールし、懸念事項をどのように解消しておくべきかを整理していくことが大切ではないでしょうか。

 

 

Ⅴ.周りの意見にも耳を傾けることも大切

クリニックを高く売却するためのポイントを7つ紹介しました。高く売却するためには、魅力を1つ1つ整理し、
懸念事項を1つ1つ解消するという地道なプロセスを踏むことが何より大切です。
自分だけではクリニックの魅力や懸念事項に気づけないこともあると思いますので、患者さんやスタッフ、
身近で支えてくれる家族、税理士や会計士、M&A仲介会社など、周囲のさまざまな人や関係者の意見にも耳を傾けながら、
検討されてみては如何でしょうか。

 

 

執筆者:金子 隆一(かねこ りゅういち)

(株)G.C FACTORY 代表取締役

 

経歴:

国内大手製薬会社MR、医療系コンサルティングファーム「(株)メディヴァ」、「(株)メディカルノート」コンサルティング事業部責任者を経て、2020年4月、(株)G.CFACTORY設立、現在に至る。医療系M&A、新規開業支援、運営支援において実績多数。

 

実績・経験:

・開業支援(約50件)、医療機関M&A(約40件)、医療法人の事務長として運営を3年間経験

・複数の金融機関、上場企業におけるM&A業務顧問に就任

・大規模在宅支援診療所の業務運営の設計及び実行責任者を兼任